スウィート・メロディー/塔野夏子
 
私の底に滴るのは
暗い砂だ

私が歩んでいるのは階段だ
いつも
上っているのか下りているのか
どうしてもわからなくなる階段だ

記憶の中には
私の指たちが仄白く棲息している
それらは鍵盤のうえで
甘い調べを奏でようとしている
――あのひとの好きな曲だ
うまく奏でられなどしないのに

暗い砂は滴りつづける

背後の遠くで
爛れた月が揺らめいている気がする

不意に
階段が私を乗せたまま反転する
どのみち上っているのか下りているのか
わかりはしないのだけれど

そして一陣の風に鍵盤は舞い去り
私はひどく疲れて記憶から醒める
――あのひとの好きな曲など
私は知りはしないのだ





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