金(キム)/馬野ミキ
ぬように俺は携帯でしゃべり続けた
『ええかキム!
俺がしゃぶったるけぇ!
そこでそのまま待機すっだーぞ!
間違ってもそのドアのノブを廻すな!
俺は男だけ、どがんしたら気持ちようなるかよう知っとるけぇ!
大丈夫だけ、俺に身を任せたらえーけ!
俺がすっごい気持ちようしたるけぇな!』
携帯越しにキムは詩の朗読をはじめていた
あんなにシャイで恥ずかしがりやだったのに
今では泡を吹きながらではあるけれど堂々とステージをこなしている
キムの生まれて初めての詩の朗読会だ
きっとキムは瞳孔を精一杯広げてすべての毛穴から液体を垂れ流していただろう
きっとそうだ、俺だって
ここが環七か環八か環百なのかだって分からないんだから
水溜りのアメンボを前輪と後輪で踏み潰す
世界中そうだ
泣いているのだ。
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