冬の味覚/蒸発王
真夜中
雪の解ける音で
目が覚めた
窓を開けると
まだ小さな
『春』が
窓枠に腰掛けて
せっせと雪を食べていた
時々
喉に詰まらせて
せき込むので
背中をさすりながら
もう少しゆっくり食べたらどうだ
と問うと
小さな春は
少し怒ったように
早く全部食べれるようにならないと
立派な春になれない
と言った
急いではいたが
それでも
春は美味そうに
舌鼓を打ち
それが
雪解けの音のようだった
あまりに
美味そうな音だったので
つられて
私も
窓枠に積もった
処女雪を口に含む
生きの良い『冬』が
舌の上で踊る
冷たい雲間
湿度に滲んだ
冬季の半月を見ながら
春と一緒に
冬の味覚に
舌鼓を打った
戻る 編 削 Point(5)