夜に咲く花/純太
 
   見るだけ

心臓の音の間隔が
はなれたら
二階の女の人も
はなれていた

・・・二階のあの人はいつもこの時間
            どこにいくんだろう・・

ぼくは二階の女の人の
かすんでいる薄紫のハイヒールと
ふわりと見えたりかくれたりの
白いスカートを見つめていたけど
本当はそよぐ髪とお尻とふくらはぎを
薄暗い中で探していた

ぼくはそのまま空を見上げ
月もとてもきれいに昇っていたから
ボーッとした

ハッとラムネを握り締めた右手
ぼくの左手を引っ張ったのは
パートから帰ってきた
白く細い母さんの手だった

ラムネのビンの中の
ガラス玉の中に
なんだか月の光が射したようで
小さい僕が見えた

「ここでなにしてんの!」

鍵を家の中に忘れたぼくは
鍵を忘れたことの嬉しさを
母さんには絶対言えないと思った
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