静かな海/石川和広
よろよろと海岸線を歩いていると
月が見えた
タバコの煙が風に乗って流れた
ああ俺は
照らす光におびえながら立っている
それから海に向かって眼をやった
錆びた商店街が背中にあった
波は無限に近く色を変えながら
どぶ川の色で
俺とは無関係に東のほうへ流れていく
漁船が見えた
うすもやに鬼火のようにちらちらと
眼の中を光が曳いてゆく
さっき夕方まで、子どもと海辺の公園で
砂遊びをしていた
トンネルを作って子どもの手を
静かに握った
「おっちゃん、トンネルつながってるなあ」と子どもはいった
最近の時勢このままでは誘拐犯とまちがわれるなあと思いながら
それで
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