距離・庭園/塔野夏子
 
異なる方向をもつ
いくつかの時空の瞳が
時折ふと輻輳(ふくそう)する

その焦点に結ばれる
あのひとの像

たまゆら
その眼差しも
仕草も
声も遠く
けれどかつて触れたことがあるような
なつかしさで

(その輪郭をふちどるのは
 木洩れ日か
 それとも
 水面に揺れる光の反射か)

この胸に湧く想いは
かなしみに似て
けれど知っている
それを
かなしみと名づけてはいけない と





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