今年最後の海/岡村明子
大きく盛り上がったかと思うと
白いうねりとなって海岸に打ち寄せる
太陽の光に照らされてきらめく細かい波の動きは全くわからないので
海はただ
黒く
盛り上がり
うねる
波打ち際に立ちながら
吸い込まれたいのを堪え
入って行きたいのを堪え
しばし魂だけで浮遊する
うごめく地球の肌を思う
その下に通うたくさんの
血
いのち
魂がもどってくると
上りはじめたオリオン座に向かって
少し歩く
目を凝らすと
男女が抱き合っていた
暖をとるように
海はただ
暗く横たわる
再び国道へ向かって
海に背を向け
砂浜を歩き出す
国道へ上る階段の少し手前まで来たとき
波の音が
消えた
振り返ると
海がなくなっていた
といってもおかしくないように
その場所から先は
波の音が聞えないのだった
そこは
2つの世界の境目
はっきり
ここからは
生活の入り口だと
耳が教えてくれた
頭上で車の流れるのを見ながら
はたして
私は振り返らなかった
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