世界の別名/岡部淳太郎
 
おまえがほんとうのことを口走る度に
鳥の翼から羽毛がぬけ落ちる
世界はやせ細り 目に見えるものすべてが
絵に描かれたものとして溶けてゆく
たとえば可哀相な妹が
人に知られぬ速度で後退する時
おまえは知らないということのために
傷口をこじ開ける
そのようにして世界は
いつもと変わらぬものとして眠っている

  これがおまえの世界である限り
  世界は決して滅ぶことはない

田舎道の 夜の暗い曲り角では
消えかけた街灯が最後の弱い光で自らを
暖め 足下を照らしながら
可哀相な人の到来を待っている
決して訪れることのない幸運
そのまどろみのような瞬間のために
ただ
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