忘却に至る情景/北乃ゆき
 
この国の果ての防波堤で
めしりめしりときみをやぶいた
静寂だけがある中で
落ちてゆくきみは
なみにぬれて
やわらかくなってやがて

とうめいに

この海を超えれないわけじゃない
この海の向こうにも国はあるのだから
でも世界には超えてはならない線があって
ぼくのその線は
きみにつながるこの海だと
充分すぎるほどに知りました


だから今
めしりめしりときみをやぶいた
鈍色に光る片恋の破片が
突き刺さるように降ってくる
静寂の中で
はらはらと
はらはらと
ちぎられたきみは
千の粉となって
底へ
底へ
さらに
底へ

静寂は
無で
無は
静寂で

静寂の中の
破片についた
どす黒い
僕の
血も
また
無で

ちぎられたきみは
千の粉となって

とうめいに



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