たけのことり/砂木
引き返せるのか
これ以上 動くのは 危険と思った
草も木も葉も 緑
たけのこに つられて山に入り込み 逆にとられる話は
知っていたはずなのに
こみあげてくる恐怖を抑えながら 立ち尽くす
ふっと 黙りこんだ耳に 近づいてくる音があった
大きくなって 遠ざかる あっ
あっちから 車の音だ
急いで帽子を脱いで 舅も聞き耳をたてる
朝が始まり 車の通行が 増えたのだった
道路は あっちだ
車の音を頼りに 歩いてゆく
段々 はっきりとしてくる
あまり 奥までいかなかったのが 幸いした
なんとか 道にでて 軽トラックに乗り込んだ
助かった
嫌な自分 だめな自分 死んでも野ざらしなっても
誰も困らないと 思う時もあるけど
恐怖から解放された事が ただ ただ 嬉しかった
もう 二度と行かない
かたく決心しながら
これから家で待っている
たけのこをゆでて 皮を向き 缶詰にする作業に
ほうっと ためいき
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