蟻/わしず
。さて、どうなるだろう。
私は少し鏡台から遠ざかることにした。しばらく経つと衛生兵が飛び出し
て来たのだが、入口付近の半殺しの蟻を巣穴に運ぶ様子はない。それどこ
ろか、こともあろうに、再びパンケーキの欠片の方向に走りだし、その周
辺をうろうろし始めたのだ。私は知らんぷりをして、その様子を見つづけ
た。
数分後、また蟻の群れが出て来て、先ほどと同じように連なって、巣穴に
パンケーキの欠片を運びはじめた。ある意味、これが戦争の姿なのかもし
れない。鏡台に映る半殺しの蟻を、そして鏡に映し出された自分を私は虚
ろな眼で眺める。置き去りにされた蟻はどこへゆけばいいのだろう。など
と考えた数分後、私は置き去りにされた蟻を、先ほどと同じように吹き飛
ばした。そして何事もなかったかのように新しいパンケーキに手を伸ばす
。今日のは甘過ぎて美味しくなかった。
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