尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 
写とそれに対する熱い賛美のうたは相変わらずである。詩人の文章である。!をとにかくつかう。
{引用=
 雨は十分ばかりで止んだ。眺望が開けて来る。真珠色をして南西から北東へ静かに移りうごく雲の、その切れ間の空の気も遠くなるような美しさ。爪先上りの坦々とした道を、時折のきらびやかな朝日をうけながら行く楽しさ。高原の微風よ!路傍に秋のゴブランをつづる灌木よ、草よ!わけても甲斐の国の山々よ!僕はお前たちにフェリシテをいう。ああ、生きることは何と善いか!この神のいない大本寺、それ自身が神の証しであるところのこの自然の中で、僕は自分に優しかったすべての死者らに感謝し、また僕の敵であった死者たちと和解する・
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