尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 
大地との囁きに耳をすまし、地の大いなる傾斜を喜び、瞥見の一様の中に千百の細部を認めて其処にひろがる火山高原独特の詩趣を味い得るような、心にも時間にも余裕のある人々にとっては、これは最早単調の道ではなく、無限のハアモニーを展開する一つの音楽的自然ともなるであろう。僕としていえば、これらの小さい輻射谷に緯糸(よこいと)を渡すいくつかの土橋を、そのあたりの静穏な明るさを、忘れられた幸福の巣ともいうべき水と日光との片隅を、あたかも音楽におけるリフレインのように楽しみ愛したのである。 p.58

単調、ハアモニー、リフレイン。


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「花崗岩の国のイマージュ」より

そして山といえば
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