苦い子守唄/岡部淳太郎
俺はおまえの手をとることにした
わたるのだ
この川を
(それは俺の中にも流れているのだが)
可視光線に浮かぶ橋もなければ
溺れることへの逆巻く否定もない
この川を
とりあえずの明日を目指して
厚い雲が横たわる
向こう岸へと
そこでは明日の俺とおまえが
変らず手を取り合ったまま
こちらよりもずっと安楽な笑顔で
佇んでいる
湿った枕の中を手探りして
夢の温度へと近づいてゆく
川の中の苦い音符を飲み干して
草叢の中の鳥目を踏みつけながら
俺たちは
眠りの前に歌うことを憶えるのだ
(二〇〇五年十月)
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