ある旅立ち/MOJO
朝のうちはみぞれ混じりの雨だった。昼を過ぎてから雪になり、ネリオがパソコンの電源を落として帰宅するころには、窓の外は綿を千切ったような雪片が舞っていた。
雪が降ると東京は脆弱な街だった。人々は軒下で傘に積もった雪を払い落としながら危うげな足取りで歩道を歩いた。車道を行き交うクルマの多くはタイヤにチェーンを巻き、じゃらじゃらと煩い音をたてながら黒く汚れた水を撒き散らした。繁華街のビル群に架かるネオンサインが暮れた空に舞う無数の雪片を映す様子は映画のワンシーンのようではあったが、ネリオは滑りやすい革靴の靴底に神経を集中させ、うつむき加減の姿勢で駅までの道を歩いた。
これでは家には帰れないかも
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