鹿と女/
紫乃
鹿になりたや
そして逃げたや
小さな紅葉の降る頃に
紅いその葉をなお紅く
鹿になりたや
そして逢いたや
いつかの昔にかいまみた
綺麗なひとみの山のひと
鹿になりたや
そして越えたや
遠く聞こえた潮騒の
引き去る波のその先へ
鹿になりたや
そして死にたや
生まれたその日と同じ秋
小さな嵐にあやされて
鹿になりたや
そして消えたや
綺麗な月の照る夜に
餅つく兎に笑われて
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