樹の中の人形/殿岡秀秋
をいつも見つめている少女が、大人になって銀杏であったならいいと思うようになった。人は願い続ければどんなことでも叶うという。女は銀杏の中に気配を漂わすようになった。
散歩するぼくは銀杏の樹とは別の気を感じるようになって、大銀杏の前で立ち止まるようになった。女がどのような思いで生きてきたのか、小春日和の下でぼくは感じることができる。銀杏が実をつける。おちた実をあつめて腐らせる。そのときに発するにおいをぼくはかいだことがある。震えながら女が後ろ姿で残していったのと同じにおいだ。
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