樹の中の人形/殿岡秀秋
銀杏の樹には人形がいる。春に葉は枝から開き、花がさく。人形は10歳くらいの女の子で、紅いスカートをはいて白い脚を出している。髪はおかっぱだ。日がな一日公園に来る人々を見ている。歩く人は人形がいることにはなかなか気づかない。
人形は声を出すわけではない。人形は樹の皮に表面は溶けている。じっと見つめると影絵のように現れる。慣れてくると表情や衣装の色彩まで読み取れるようになる。秋には和服を着た大人の女になる。扇形の葉に切れ込みがはいった図柄の帯をしている。黄葉した葉の色が切絵のように散らばっている。
秋晴れの空の下でも人形の目は暗い。失意を閉じ込めた女の姿が人形になったのだ。銀杏をい
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