それはかなしみのため/石川和広
意外なところから
闇が降りてきた
その中で書いていると
母が向こうを向いて
おばあちゃんと
しゃべろうとしている
しかしお母さんの許せない気持ちが
歯の形になり
お母さんの言葉は
噛み砕かれる
音がして
僕は悲しい
生きている闇が
人恋しい僕に
語りかけている
お母さんのこと
僕の心に歯形を作って
たくさんのご先祖様が
静かに並んでいる列が見えて
おばあちゃんは
もう呆けて何年もたつ
言葉が消えていく
お母さんははなしかけられない
たくさんの感情を
おしこまれた宇宙
弁当がまずかった
叱られた
くらべられた
いつまでも
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