十月の空を見なさい/嘉野千尋
 
  
  「本を読みなさい」
  

   その人はそう言って
   夕暮れて図書館が閉まるまで
   わたしの隣で静かに本を読んでいた


   映画を観なさい
   音楽を聴きなさい
   困り顔のわたしをそっと見守り


  「音楽は好き」


   そう答えると
   その人は少し笑って
  「そうか」
   とだけ言った

  
 
   三年経って町を出た
   もう戻ることはないだろうと想いながら
   それでも十年経ってまたあの人のいた町に戻って来た
 

   木漏れ日を追うようにして通り抜けた並木道の
   その先に続
[次のページ]
戻る   Point(25)