*夏だった*/かおる
ジュワッと音をたてて消失するのでしょうか
花も散らねば たわわな実りもなく
サンサンとした夏色を消し去るように雨が降る
水の記憶が命の根幹を揺する
それでも夏は短い季節で
陽炎のような茫漠とした
欠けている消失感を
埋め戻したい一つの衝動で
夏の情景をこんなに切なく感じるのはなぜ
ヒグラシが盛りの終わりを告げているからでしょうか
まだ こんなに暑いのに まだ燃焼中だというのに
人の世に生きるには一人では寂しすぎるのでしょうか
この鮮烈な空や山や海も いつの間にか 艶やかさに染まりはじめ
血のような夕日の紅が静かに 静かに広がっていきました
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