午後、西南西へ/芳賀梨花子
台風が行き過ぎた
西南西へ
6号の進路とは逆に
青空は底なしのように突き抜けて
まっすぐ入道雲へ
ラジオからエルトン・ジョン
切ないじゃないか
そんなに簡単に手渡さないで
ハンドルを握る手は汗ばみ
窓の隙間からは塩分をふくんだ湿気
記憶の貝殻が悲鳴をあげる
どうにか生きながらえていたのに
死のうとしている貝殻
西南西へ
逃げろ
早く
貝殻がぱっくりと口をあけてしまうまえに
急げ
洗い浚い吐き出されるまえに
肌にまとわり付いてくる記憶が
振り払えなくなるまえに
貝殻の死は残酷な螺子だ
巻貝でもないくせに
わたしにめり込んでくる
西南西へ
逃げろ
あ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)