悲鳴/岡部淳太郎
それらの花の
悲鳴
が 聞こえたような気がした
震える空気の中に
挫折した花粉が舞い上がった
昔日の歴史の中で垣間見た
残酷な拷問のそれのようにたしかな
悲鳴
が 聞こえたような気がした
いったい何をするのか
妻の細い肩を揺さぶると
――花の首を切るのは、女の仕事よ。
そう言って 妻は微笑んだ
妻のこんなに妖しい微笑を見たのは
初めてのことだった
――花の首を切るのは、女の仕事よ。
夜の不確かな戒めが解かれた
暗い部屋の外でただひとつの星が輝いていた
私に出来ることはどこにあるのか
妻が私の方に振り向いて髪がなびいた
赤 青 黄 白
色とりどりの花の群れ
部屋の中は美しい匂いで満たされた
花の悲鳴の行方を探して
その夜 私たちは激しく愛し合った
(二〇〇五年八月)
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