悲鳴/岡部淳太郎
 
その日の夕方
妻は花束を抱えて帰ってきた
赤 青 黄 白
色とりどりの花の群れ
寝室の棚の上に花瓶を置いて
妻は花をその中に挿した
赤 青 黄 白
色とりどりの花の群れ
部屋の中は美しい匂いで満たされた

食事を終えて入浴後
妻は読んでいた本から顔を上げると立ち上がった
そしていきなり寝室に行き
さっき挿したばかりの花を
その首の根元から切り始めた
赤 青 黄 白
色とりどりの花の群れ
それらは音もなく落ち
後にはくすんだ色の切り口だけが残った

何が妻をそのような行為に駆り立てたのか
ただ死の芳香が鼻先をくすぐった
切ってしまう
切られてしまった

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