凪の素描/芳賀梨花子
 
梅雨が明ける
青空の隙間から熱い風が吹く
素足を焼けた砂に投げ出せば
背中や肩や胸元に焼きついた記憶と
砂塵とともに行方を知らせない記憶たちが
行き来する
だから
こうやってここで
生きているだけで
焼きついていく
鮮烈になっていく
なにもかも
波の音だけでいい
砕け散って
飛沫になって
わたし
また塊になって
砕け散って
飛沫になって
わたし
くりかえして
また鮮烈になっていく
今、出会えば
忘れられない記憶になれるのかしら
素足にまとわり付いた黒い砂
寄せる波が洗う
どうせなら
なにもかもこの波がさらってくれればいい
そして明日から夏だと
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