ブリキのひびき/石川和広
 
えてゆくだけ

知らず知らずに涙が伝う

その場しのぎの微笑みは
うすぐらい通りに
消えてゆくだけ

雨が降るトントカテン

感情がうずまくんだけど
ふつうに悩んだり
泣いたり
うらやましい
鉄板の下に
隠したささやかな声は
忘れてしまった

避けているだけかも
しれない
という過程も家庭も
覚えていない

晴れているトンテカテン

私は愛を受けて育った

私は肝心のことばを
様々ななかまはずれの中で
失ってしまった

なかまはずれにされる前から
死んだひとのかたちの前に
たちすくんだ

外界を遮断し
ただ無限のたましいの壺におち
謎がなぞと感じられなくなり
生きている実感を
失い
白い紙に燃えることばをかき

ことば
消えて
消えて
また書いて

ブリキの胴をもったのだ

なぜか
最近腹がぷよぷよするんだけどね

戻る   Point(5)