少女飛行機/Monk
 


”管制塔
 管制塔
 
 わたし、もう大人です”


インカムをつけた父親たちの
腕組みと低調な呼吸音
誰かが返答をしなければならないが
彼らは呆然という姿勢で腰掛けたまま
各々の娘たちが大胆なドレスを身にまとう
その想像を打ち消す作業に追われている


機体が轟音をあげ動き出す
彼らには有効な手段を講じることができない
本日は晴天
フライトに支障はないだろう
ただモニターを見上げ唾液を貯め続ける行為
最終確認の連絡
ついに耐えきれなくなった一人が
待ってくれ、と
インカムに叫び滑走路へ駆け出してゆく


各機の離陸は予定通りに行われ
本日の最終便が離陸体制にはいる
管制塔にはすでに誰もいない
老いた父親たちは次々に滑走路で倒れてゆき
若い男たちがデッキでその様子を眺めながらビールを飲んでいる


最終便はひとり夜闇へと溶けてゆく
誰も「良い旅を」と言わない


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