月と渡辺さん/松本 涼
きていた
書きとめられた一昨日の渡辺さんの夢は
歌詞になろうとして繋がったり消えたりしていた
虫としての一生をどう過ごすか考えて
キリカはその夜一睡も出来ずにいた
朝が近付く
眠りの中降り出した大雨の下で三日月は
虫として溺れながら新鮮な喜びを感じていた
完全に夢を思い出し歌詞にした渡辺さんは
その歌に「月の子守唄」というタイトルを付けた
キリカは窓から薄くなる三日月を眺めながら
虫となって死んだあとは唄うたいになろうと決めていた
渡辺さんは唄う
キリカが微笑む
三日月が目覚める
雨だ
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