月と渡辺さん/松本 涼
 
きていた

書きとめられた一昨日の渡辺さんの夢は
歌詞になろうとして繋がったり消えたりしていた

虫としての一生をどう過ごすか考えて
キリカはその夜一睡も出来ずにいた


朝が近付く


眠りの中降り出した大雨の下で三日月は
虫として溺れながら新鮮な喜びを感じていた

完全に夢を思い出し歌詞にした渡辺さんは
その歌に「月の子守唄」というタイトルを付けた

キリカは窓から薄くなる三日月を眺めながら
虫となって死んだあとは唄うたいになろうと決めていた


渡辺さんは唄う

キリカが微笑む

三日月が目覚める





雨だ









戻る   Point(7)