消失/岡部淳太郎
 
メット。
ほら、見て。
洞(ほら)の絵模様も無のまま。
綿の中、
血、駈ける。


(消失 四)ひょっとこの本

秋、
靴を忌む。
浜の琴を目に、
闇の尾根をぬけて、
ひゅっと、
ひゃっと、
ひょっと、
ひょっとこの顔。
鴨を湯に、
湾の歩兵を淵に、
棚の上の読みかけの本、
きっとひょっとこの本。


(消失 五)夢の鰐

塀と戸を歯に塗って、
やっと立ち、
皮膚も繭も夏の青。
本を読み、
妻の手の、
無の上に立ち、
稲と実の世、
夢の鰐。


(消失 六)驚愕の犬

わっ!

何?

ぬめ、ぬめ、の、
野を
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