青い火/とうどうせいら
 
ヨット 一度だけ。


夏の日の晩
ダーリンと私はくちづけを交わし
今始まった恋のように
何ごとか耳元でささやきました。

それはきっと年老いたダーリンが
終わりの日が近いことを
知っていたせい。

家の中に 灰皿や
     革靴や
     さびたナイフや
     丸めたズボンが
当たり前のように
置き去りになりました。


  
ほら 見て
波の向こう
青い火が燃えてる


ダーリンの
かつて指さした彼方に
見えているのは
闇ばかりで。

ただ 浮かぶのは
ダーリンのことだけが。


ダーリンのことだけが。











戻る   Point(10)