青い火/とうどうせいら
ヨット 一度だけ。
夏の日の晩
ダーリンと私はくちづけを交わし
今始まった恋のように
何ごとか耳元でささやきました。
それはきっと年老いたダーリンが
終わりの日が近いことを
知っていたせい。
家の中に 灰皿や
革靴や
さびたナイフや
丸めたズボンが
当たり前のように
置き去りになりました。
ほら 見て
波の向こう
青い火が燃えてる
ダーリンの
かつて指さした彼方に
見えているのは
闇ばかりで。
ただ 浮かぶのは
ダーリンのことだけが。
ダーリンのことだけが。
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