二十五歳/The Boys On The Rock
 
・・・空気も、薔薇色の雲も、あの深邃な場所にある見えざる天界も
・・・二十五歳である 金子光晴「二十五歳」

穏やかな一日
平日の人気の無い公園で
座り込み
放り投げた 帽子のロゴが
ズームアップ
視界を汗臭い帽子の幕が覆う
青から暗黒への暗転
軽いめまいを覚えた

まだ俺は
「二十五歳」だ
ちょっとひねてはいるが まぎれもない
「二十五歳」の現実だ

あの日 感じためまいは
デートの途中 ジェットコースターで無くした
帽子のように
忘れはしないだろう

手のひらに感じる
クローバーと火山灰地の感触は
友人や宗教やセックスよりも
はるかに人間臭い
硬く握りしめた 拳の中の
小さな地球を閉じ込め
冒涜の気構えで 口に放り込むと
(きっと苦いだろうが平気な顔で飲み込んでやる)
口に入れた些少な土塊は
意外にも
苦くも甘くも無かった

わかったような気がしていた
1993.5.3

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