ありえざるもの/大覚アキラ
かび上がっている。部屋の中にはぼくの他には誰もいない。いるはずがない。なのに、その壁には、テレビの光によってできた、何者かの影がくっきりと映し出されているのだ。ぼくは左目の端で、ゆっくりとその影を確かめた。
それは……どう見ても、天井からぶら下がった、首を吊っている人のカタチだった。
もちろん、天井からは首吊り死体なんかぶら下がってはいない。
なのに、テレビの光は、そこにあるはずがないものの影を映し出しているのだ。
恐怖というやつは、ある一線を越えてしまうと、ちがう種類の感情になってしまうようだ。ぼくは半ば呆気に取られて、その“ありえないものの影”をぼんやりと眺めていた
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