叫びについての独語/安部行人
 
真昼、
通りの向こうで叫びがあがったが
どうしても人間の声にはきこえない

おれは対角線上を通りすぎ
日陰から振りむくが
すでに何も見えない



何が叫んだのか
何を叫んだのか
おれにはわからない



叫びは恐怖のためではない
恐怖は沈黙に続くものだ

恐怖ではないなら
何のために叫びはあがるのか

苦痛のときならば
苦痛の叫びがあがるだろう
歓喜のときならば
歓喜の叫びがあがるだろう



夕刻、
おれはまだ歩いている
暗くなった舗道、地下街、交差点を

振り向けば叫びがあがるが
どうしても人間の声にはきこえない
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