口笛星/大覚アキラ
 
村でいちばんの器量良しで
口笛が上手だったその娘は
母親が死んだ晩に
喪服のままで森の奥に消えて
二度と帰ってきませんでした

道に迷った旅人が
森の奥で口笛を聴いたという
そんな噂も数年で風化して
それっきり村人たちは
娘のことを忘れてしまいました

娘が消えた晩から
ちょうど百年経ったその日
ものすごい風が森を吹き抜けて
月のない真っ黒な空に揺れる星が
風が吹くたびに森に降りそそぎました

地に落ちた星は
心細い光を宿した硝子玉みたいで
その光はいつまでも消えることがなく
星に耳を近づけると
小さな口笛が聴こえるのです

長い長い年月が流れた今でも
百年に一度のその晩には
ものすごい風が吹き荒れて
風が吹くたびに揺れる星が
硝子玉のように降りそそぐのです





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