冬の、/竹節一二三
空はややこしく物悲しい
こつこつと誰かの一人帰る音がきこえる
車の高いクラクションがなる
冬の風が耳にしみる
先ほどまでうすいシャツ一枚でいられたのに
わたしはカーディガンをはおり
つめたい指先を口に含む
暖かいこの土地にもようやく
冬の匂いがやってきた
夕焼けの中防波堤にいって
ひざをかかえて目を閉じた
いくらまっても記憶はよみがえらない
冬に死んだあの子の微笑みは思い出せない
冬の思い出はいつもつめたい
乾燥した風の中に下水の匂いがある
水を流さなきゃ 立ち上がると
足の先が冷たくて膝が立たなかった
夕焼けは藍色に染まり始め
よるが間近に迫っている
冬のつめたさは身体に悪い
冬のあの子は笑わない
冬のわたしもわらわない
戻る 編 削 Point(2)