船の名前/岡部淳太郎
知らぬ船に乗って
われわれは滑る
飢えた時の狭間で
われわれの水は限りなく更新をつづける
誰も
海の本当の味を知らない
上空から見下ろす
海鳥のような視線を持つ者よ
われわれが乗る
船の名を教えてくれ
その名を知らないことが
われわれの旅の行末を決めるのか
われわれには
知らないことがあまりにも多すぎる
波は
ただ繰り返す
生は
ただ繰り返す
この海の上で漂う
われわれの時を崇めよ
われわれは潜る
名も知らぬ船に乗って
この海の核心へと迫る
われわれはやがてたどりつく
波の揺籠の果て
苦い塩の尽きる場所へ
われわれは
この船の名をいまだに知らないのだが
(二〇〇五年六月)
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