『琥珀の襟巻と銀の兎』 第六章:ひろわれた石と紅葉/板谷みきょう
ずっと後の時代。
ひとりの子が、渚でその小さな石を拾い上げた。
石は少しも光らなかったが、
子は生涯その石を掌から手放さなかった。
誰かを救えなかった夜、
石は掌の中で同じ分だけの重さを
返してくれたからだ。
老いた子は、やがて
石を庭の土に深く埋め、
自らも名を残さずに
この世を去った。
その場所では草がよく育ったが、
不思議なことに
花は一度も咲かなかった。
ある秋の日、
川から一枚の紅葉が流れ着いた。
それはかつて
蛇が神になる道を捨てたときに、
世界と繋ぎ止めた細い糸のようでもあった。
翌朝、紅葉は風に吹かれて消えていた。
世界は結局、何も変わらなかった。
だが、誰にも知られぬまま
沈黙を引き受けたその重さだけは、
確かに土の中に、
そして子の記憶の端に残っていた。
それもまた、この不完全な世界が
壊れずに続いていくための、
最後の一片の理由であった。
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