アパート(修正版)/板谷みきょう
た「未来への準備」。
わたしは、生きることで完成させなければならない。
震える手で靴下を手に取った。
掌の中で布地は驚くほど軽かった。
水を張った洗面器に沈めると、布はふわりと広がり、
あなたの匂いが静かに解き放たれていった。
その瞬間、
胸の奥の長い冬に、やっと雪解けが迎えられたように
水面の揺れとともに、 あなたの気配は、薄れ、消えていった。
けれど不思議だった。
遠ざかるのではなく、あなたが
わたしの心の内の最も深い所に
そっと
腰を下ろしたように感じた。
洗った靴下を両手で絞ると
透明な水が、しずくとなって
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