濃緑のドア/佐々宝砂
優雅な動きで虚空に私の知らぬ文字を描く。真っ白だった壁に濃緑のドアが浮かび上がってくる。私は立ち上がる。歩き疲れたわけでもないのに膝が笑う。手を差し伸べる。指が震える。水色の人は目も鼻も口もない顔をこちらに向けて頷く。
水色の人はドアノブを左手で握り、私の左手を右手で握る。陶器が落ちて割れる音がしてドアが開く。すみれ色の光がこぼれてくる。どこかに行ける、ここではないどこかに行ける、ドアの向こう、経験したことのない歓喜が湧き上がる。私はこの人に惹かれている。
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