Yの解剖/やまうちあつし
 
Yとは友達だった

しばしば話し込み
時に酒を飲み
気の置けない関係だった

熟練した監察医とはいえ
友人の亡骸を切り刻むのは
ごめんこうむりたかったが
公僕の悲しさ
選択の余地はない

前日から気がふさぎ
食事も喉を通らない
寝不足の頭をゆすり
術衣に袖を通す

そういうときに限って
メスは鋭さを増すのだ
いつも以上に手際よく
問題の部位を切り捌く

そのとき私は
仏像であったそう

縦横無尽に行き来する長い腕
繊細に器具を振るうしなやかな指
そして何といっても
一切の感情を読み取ることができない
アルカイックな表情

存分に精査を終える
かつてYであったものらが
手術台からこちらを見ている

今や無数の存在

私たちはもう
友達ではないだろうか
それとも
これで本当の友達だろうか

戻る   Point(3)