すすき野原で見た狐の話/板谷みきょう
 
化ける姿を見られてしまったことに動揺し、
娘のままでいる時間も分からないという、わずかな焦りも映っていました。
その瞬間、すぐに娘の姿から、元の狐の姿へと身を縮め、
音もなく月の光の隙間に消えました。
月明かりに残っていたのは、わずかに揺れるすすきの穂だけでした。

男は我に返り、慌てて狐の消えた所へ駆け寄りましたが、
夜露に濡れた土の上、そこには
光を反射して輝く、紅色の漆塗りの簪がひとつ。

男はそっと拾い上げました。
手に残る冷たさは、狐がそこにいた証。
そして、重さと光沢は
狐の努力と夢が残っていたことを伝えています。

月の光だけが、野原にあるすべてを照らし
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