久しぶりの日記/由比良 倖
まうのだと、聞こえない音楽に耳を澄ますこととか、そういう細々とした暗めの、どちらかと言えばマイナス寄りのイメージの方が、心の深い場所には近いのだと思う。
心のずっとずっと深くのゼロの領域から、完全な静謐に充たされた無の場所から、小さな小さな泡の粒が分かれ分かれ、触れ合いながら離れながら、ぷくぷく、ぷつぷつと、いくつもいくつも立ち上ってくる。粒たちは或いは纏まり、或いは分裂しながら、揺れながら浮かんできて、それらは小さな単音となり、旋律となり、リズムとなり、和音となり、やがては小さな音楽になって、そして意識の表面のさざ波に触れた瞬間、ぱちんと弾けて、カラフルな音色を残して、消えてしまう。
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