狐の願いと人魚の唄(To celebrate discharge)/板谷みきょう
与一は静かに歩み続けました。
過去を抱くのではなく、光として連れてゆくために。
雪解けの街道。
凍った泉。
人魚の涙の蒼。
母狐の灯のぬくもり。
そのすべてが与一の胸で穏やかに溶け合い、
「叶わぬ愛も、献げられた命も、
いずれは誰かを照らす光となる」
という小さな真実を、そっと灯していました。
与一はゆっくりと歩きます。
けれど確かに。
偽りのない光の中を。
母狐が遺した胸の灯と、人魚が託した瞳の蒼。
ふたつの願いは、ひとつになり、
与一の旅路を、果てのないところまで
照らし続けるのでした。
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