沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
 
壱. ぬらくら川と暮らしの音
「何十代も続いたうちの家も……さいごは、……沼ん底に沈んじまうんだと……。」

爺さまは、濡れた袖で鼻をすすりながら、ぽつり、ぽつりと呟いた。その声は、日が落ちたあとの薄いもやのように冷たく、寂しく、深い大地の奥にずぅっと染みとおっていったんでございます。

村は、ぬらくら川の絶え間ないごう音に包まれておりました。昼も夜も川は怒り狂い、岩にぶつかって泡を散らし、村人たちの耳に不安を囁きかけていたとさ。

囲炉裏では、薪が湿気を含みながら、ちろちろと爆ぜる。そのかすかな音の向こうから、遠くで子どものぐずる泣き声が聞こえてくる。それは飢えによるものか、川への
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(1)