父の献立/たもつ
ともがっかりすることも
してはいけないと思った
父も何かに
許されたいのだと思った
循環、という言葉には小さな
痛みのようなものが含まれている
踏切で立ち止まり
目視できるところまで
枕木を数える
すべてを数えることが出来るならば
最後の一本は
わたしのすぐ後ろにある
空を見上げる
そこにはいつも水面があって
呼吸をする度
緩やかに溺れていく
父にも同じように
時々空を見上げる癖があった
脱脂綿のように涼し気な様子に
憧れもしたけれど
今ならわかる
溺れないようにすることで
多分精一杯だったのだ
幼いわたしが許されたように
父を許すことができるのは
わたししかいない気がした
それなのに父は
わたしが産まれる前に
大人になってしまった
一瞬にすれ違う車両から
微かに夕食の匂いがして
献立は色を取り戻していく
ひとつ
またひとつ
失うように
取り戻していく
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