父の献立/たもつ
 


踏切で通過を待つ献立の色は
徐々に透明を重ねて
温かい食べ物が相応しい
そう思うと
環状線の列車が織りなす風が
調味料の先の方まで伸び
わたしもまた誰かの
呟きのようなものだった

ふと、息をしない瞬間
その瞬間の連続
父は夕食が好きで
特に雨上がりの
静かな献立が好きだった
わたしも一緒に食べ
美味しいという言葉も言った
整然と物や事が並べられた食卓
幼い、ただそれだけで
許されていた

海を見せてあげるよ
ある朝、父がそう言って
環状線に乗せてくれた
けれど準急列車は海に着くことなく
小一時間かけて
元の駅に戻るだけだった
怒ることも
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