秋陽/リリー
 
 薄群青のみずうみに
 なびく帆が、波に溶け込む光のなかへ
 すべる様に遠のいていく

 老竹色した山並みにいざなわれる
 あのヨットの彼方には
 岸辺など無くて
 爽籟の湖面がどこまでも
 広がっているにちがいない

 やがて一点となって
 眼にキラキラ映る帆の
 見知らぬ人を、湖畔に立ち追い続ける

 秋の香気を胸に吸いこむと
 ほんのいっときの
 微睡みから覚めたような
 肌さむさ

 これからも未知へと続く私の道に
 吹く風の手ざわり
 汗ばむ拘束された労働の
 規則正しい日課をこなす
 ささやかな幸せが
 もう一度、見えない
 希望の水脈(みお)となることを願って
 
 視詰める帆は、遠くで
 もうタッキングしていて
 比叡の山が聳える西の岸へ戻って行く
 
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