今はむかし/由比良 倖
 
ばっていて、
灰色で、少し怖い、煙草とハートと分度器にも似た銀の世界で、
恐怖に抱かれて恐怖を抱いて、恐怖でさえも笑う頃になって、
私は眠り、覚めれば書いて、
一生心臓を歌うしか縁が無く、歌うための密室を海中で探索してて、
海は空より広いので、星は掠れて、
失うだけの立ち往生を刻み続けて、
夢では音の部屋を見て、星明かりの夢ばかり見て、
そこで私は花に読まれて、花を見る、そこに迷いなんてなく……

けれどまた目を覚まし、指を折り、狭い四角い部屋を再び、迷い始める時間が好きです。


感情障害と言うのだそうです、だから名札を持っています、
私自身は何処にも所属してないし、履歴書なんて空白なのに、それでは何かと不便なので、旅行先でも白いカルテを持って歩いています。奇数が好き、と看板に向かって宣言してみたり、緑の17が好きだとか、犬の死体が揺れたとか。
ともかく何も怖れずに生きているのに、一体何に怯えているの?、なんて言われることがしょっちゅうなんです。
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