あかり/夏井椋也
 

午後11時37分
駅前のタクシー待ちの列に並ぶ

星のない夜空に
ぽつんぽつんと浮かんでくるのは

今日の飲み仲間

いつもの見飽きた赤ら顔
お久しぶりの伊達男
歳をとってもマドンナ
イジられまくりの幹事さん
はじめましての堅物

声と語り口が
眼差しと目配せが
馬鹿笑いとしかめっ面が
ボケとツッコミが
溜息と泣き上戸が

ぽつんぽつんと
心の袋小路にあかりを灯してくれる

歳を重ねて
嫌っていうほど大人になっても
誰もが手探りで今日を歩いている

したり顔で
処世訓をぶちまけたところで
明日のことさえ誰にも見えない

人と人が交わるところに
あかりが灯る

あかりからあかりへ伝い歩いて
自分のありかを探る

午前0時12分
タクシーの順番が回ってきた

今夜は自分に帰れそうだ




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