六粒の薬/道草次郎
 

 気づいていないのは自分だけで、自分のことをいちばん知らないのも、やっぱり自分なのだろう。

 他の職員たちは、その子に常識的に接している。たしなめたり、黙って流したりして、大人の距離を保っている。けれど、ぼくにはそれができない。その子の言葉にうろたえ、たじろぎ、立ちすくんでしまう。

 ぼくの日常は、そんなささやかな戸惑いで出来ている。昨日だって、その子と肩を並べて力仕事をした。そして、ふいに落ちてきた葉のように、理由もなく笑い合ったりした。

 そして昼休み、あの子のお母さんの手作り弁当の、形の整っただし巻き卵を頬張るその子を見ながら、ぼくはこんな時なにを感じ、なにを思えばよいのかが判らなくなる。
 ただ、いろんなことが哀しくなって、哀しんだ自分を同時に少しだけ諌(いさ)めているのだ。

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